コチラの記事は前記事
【槍ヶ岳】北鎌尾根テント泊2泊3日の山行記録(難易度、ポイント解説)①
の続きになります。
行程のおさらいと北鎌尾根の難易度について
2日目は、まずは北鎌尾根の稜線へ上がります。そして槍ヶ岳へと徐々に近づきながら岩稜を尾根伝いに進みます。山頂直下の平なテント場で泊ります。
3日目の朝、ついに槍ヶ岳山頂へ登頂!そして長い長い帰路へと進みます。
難易度
一般的な登山ルートを対象とした体力度と登山道を通過する際の技術的な難易度を評価した山のグレーディングは御存じですか?
「信州 山のグレーディング」では自分の調べたい山の体力度と難易度を知ることができます。
上記のグレーディングでは、
ポイント
多くの登山者が利用する一般的な登山ルートにあたらない特に条件の厳しい登山ルートは評価の対象としませんでした。
(例:西穂高岳~奥穂高岳(北アルプス) 北鎌尾根(北アルプス) 鋸岳(南アルプス) 赤石岳(南アルプス)
参考引用文献:信州 山のグレーディングより
と、明記されています。
一般登山道の最高難易度であるEのレベルでは「緊張を強いられる厳しい岩稜の登下降が続き、転落、滑落の危険個所が連続する」とあり、また技術、能力の最高難易度であるEのレベルでは「地図読み能力、岩場、雪渓を安定して通過できるバランス能力や技術が必要」「ルートファインディングの技術、高度な判断力が必要」「登山者によってはロープを使わないと危険な場所もある」とされています。
あえて特に条件の厳しい登山ルートとされていることからわかるように、槍ヶ岳の北鎌尾根は、単純に考えてもこれ以上の難易度があるということですね。
2日目 北鎌沢~北鎌のコル~独標~北鎌平~2日目テント泊地まで
2日目の行程
2日目
北鎌沢出合(テント場)~北鎌のコル~天狗の腰掛~独標基部~独標~p12~p15~北鎌平(テント泊)
北鎌沢を北鎌のコルへと目指しますよ。
水の確保
ここで超重要なのが水の確保です。今回、2泊3日の行程ですがこの2日目が核心といっても過言ではありません。
いったん北鎌のコルへと上がってしまうと稜線歩きになるため、3日目の登頂後の小屋にたどりつくまで水場がありません。
そこで沢の水で給水します。
ここだけの話
私はこの沢の水を給水した後に思ったのですが…これは私の個人的な気分の問題かもしれませんが参考程度に聞いてくださいね。
北鎌沢を北鎌のコルまであがるとわりと広めの平たい木陰になっています。ここでは皆、考えることは同じなんですよね。みんな、人目を避け、すこし木の陰などに隠れて排泄をします。私も、小の方を…。その時、とぐろを巻いたトイレットペーパーを見ちゃったんですよね。
いわゆるキジウチ、お花摘み…。えっと…。登ってきた沢のてっぺん付近で、もしくはその沢沿いでも、みんなしてるよね?!そんな風に考えると、排せつ物がそのまま沢の水へとなっているわけではない!と、わかってはいてもなんとなく、気持ちの良いものではないですよね。(きれいにみえても人や動物の排せつ物から流れ出た大腸菌がただよっていることが…)
この山行では私たちグループは一人も浄水器は持っていなかったので、補給した沢の水を沸かして飲んでいます。誰もお腹を壊した人はいませんでしたよ。
でもでも、次に行く時は絶対に浄水器を持って行こう!私はそうします。
何度も小休止しながら登る。
登りながら師匠がこの北鎌沢でルートファインディングに失敗し変なところへ出てしまい、前進も後進も出来なくなってしまい滑落し死亡してしまった人の話など、脅しているのか、本気なのか怖い話をいっぱいされた💦
標高をどんどんあげているのが実感できる
結局、後少しで北鎌のコルという草付きの箇所で少しルートミス。
結果的には北鎌のコルを進行方向左手にみえる位置を登ってしまっていた私たち。
距離にしたら多分、十数メートルといったところ?
あ?間違えてる?と気が付いた時にはすでに後退するのも難しい感じです。
アルパイン山行をするようになり、急登なうえに濡れて滑りやすい草付きというのが、私が一番苦手なパターンです。
草丈が短く思いっきり引っ張ると根っこから土ごと崩れてしまうような山肌を、滑ったり、バランスを崩さないよう歩く慎重さも求められます。
メモ
北鎌沢の正しいルートについては、古い情報を鵜呑みにしてしまうのは危険です。雨、雪どけ、土砂崩れなど地形が変わっていることもあります。事前の情報収集では直近の情報を集めてくださいね。
暑さと疲労と緊張感が解けたことで、ぐったりな私。
やっとのことで北鎌のコルに着いた時にはすでに計画より1時間半も遅れをとっていました。
大丈夫なの?私たち?
疲労と緊張の連続から、気持ちが弱くなってしまった私…。
ついつい口から弱音を吐いてしまいました。
普段の山行では「疲れた」「しんどい」など、まず口にすることがないのですが、この時ばかりは疲労がピークに達していたようです。
そんな私に師匠から喝の厳しい言葉が!
「それならここでひき帰すか?」
ハッと、我に返った私。
こんなところでひき帰すって?いやいやいや。
まさか、ここで今、登ってきたルートをくだるなんてとても考えられません。
それほど、厳しい場所に来ているのです。
気持ちを引き締めなおして再び出発だよ
稜線に出ると景色を堪能できるのでテンションがあがりますね。
ジリジリと陽射しが暑く、小休止を繰り返しながら進みました。
師匠はそれほど急いだ様子もなく、淡々としていましたが…。
実はこの時、師○がザックの中の異変に気が付きました💦
なんと、ザックの中で水が漏れている!?どうやら閉めたはずの水入れの蓋がしっかりしまっていなかった様子。全量ではなかったようですが、かなりの量が漏れていました。そこは私たちチームです。お互いが持っていた水を分け、体調不良者が出ることもななく窮地をしのぐことができました。
独標までの稜線歩きもジワジワと暑さがこたえます。
持っていたバンダナを日除けがわりに頭からかぶっています。
写真中央やや右の岩肌がくぼんでいる箇所(通称「逆コの字」)前を歩くパーティーが通過中
どこもかしこも危険ポイントだらけではありますが、独標の基部へ到着。
逆コの字までやってきました。
大きな荷物、ザックが上部にひっかかり滑落でもしたらたまりません💦
ポイント
アルパイン山行では、なるべく軽量化!かつコンパクトにすることを心掛けます。危険個所を素早く通過するためにも荷物は厳選し、余分なものは持って行かない。ザックも小さい方がよい。ザックに外付けで色々とつけない方がよいというのが、上記の写真でよくわかるかと思います。この時の私のザックは2泊3日のテント泊山行で40Lです。
慎重に慎重に、なるべく下を見ないようにしつつ慎重かつスピーディーに!通過しました。
危険個所を抜けると…ミヤマオダマキが!
まるで「がんばったで賞」をもらったような気分です
絶景すぎる!
立山まで眺望、完璧です
独標の稜線まであと少しのところにチムニーが一か所あり残置のお助けロープもありましたが、それは使用せずに左から岩稜帯を巻いて登れました。
そしてついに!稜線に出た!
チムニーを巻いたからと言って、決して簡単というわけではなく、ここでも一瞬の油断もできない岩稜歩きです。
稜線に出た時、またもやお花に癒されたのは偶然?
イブキジャコウソウには蝶々もいて、まさかこんな場所に?と驚きました。
怖かった
ここには張らないけどね
北鎌尾根と平行してはしる硫黄尾根が近くに感じます。
そして
絶景!独標に登頂です
ここでもかなり長めの大休憩です。
参考
独標山頂は、この北鎌尾根で確実に電波の入る箇所です。ずっと電波のつながりをチェックしていたわけではないので、不確かではありますが、アルパイン山行ではまず圏外と考えて間違いないでしょう。つまり、SOSを呼びたい時はここまでこないと電波が入らないということですね。万が一のために覚えておいてもよいと思います。ちなみに、師匠はのん気にここで「独標に着いたよん!」的な電話をしていて楽しそうでした。
後は本日のテン場まで稜線歩きです
ひたすら尾根伝いに歩きます。
この岩稜帯歩き、けっこう迷って余分に歩いてしまったというパターンがあるようです。
注意ポイント
時々、一見なだらかにトラバース道が続いてそうにみえる、はっきりした踏み痕が現れますが、惑わされて迷ってしまうと大変です。ロープを出した方が良い?と迷う様な箇所に出てしまっていてはきっとそれは間違いです。いったん戻り、尾根伝いに進むのが正解なようです。北鎌尾根は基本的にはここに挑戦するそれなりの技量のある方なら、最後までロープを使用しなくても行けるようです。実際、私たちも準備はしていましたが一度もロープは出していません。※もちろんロープを使用しながら安全に進むことは悪いことではなく、むしろ良いと思います!ガイドさんの山行では必ずそのようにされているようです。危険個所では迷わず使用しましょう。この記事はあくまでも参考までに…自己判断、自己責任でよろしくお願いします。
疲労がピークに…
時々、尾根を巻きトラバースする明らかな踏み痕があり、ついそちらを選択したくなるのですが…。
師匠はとにかく尾根伝いに歩きます。
こんなところ歩くの?という尾根づたい…。ガスも沸いて、風も強くなってきて…。
疲労も重なり、皆、無口になってきています
やっとテントを張る場所へ到着。
師匠は北鎌平よりもよいテン場があるからと、もう少しだけ先へ進みました。
確かにありました。
来た尾根伝いを振り返ると、北鎌平でテントを張っている後続のパーティーが見えました。
注意ポイント
テントを張ろうとしている場所に先着者がいて張れなかったら?そんな事も気にしながら進まないとです。
その時の入山している前後のパーティーの数や人数なども山行中、ただ挨拶をするのではなくお互いに声を掛け合い、その日の行動予定などお互いに把握できるといいですね。一般登山者向けのきちんと整地された素敵なテント場があるわけではありません!
テントを張り終える頃、あたりは薄暗くなってきて…小雨が降り出しました。
ほんのわずかな時間差で濡れずにテントの中で休むことができたのでした。
怖かった2泊目の夜
テントの中に入り軽い夕食も済んだ頃、テントの外からシトシト雨の音が。
はあ、濡れずに助かった。
そんなことを仲間と話しをしていると、たぶん2人程度?の人の話声が私たちのテント脇を通り抜ける気配がしました。
辺りはすでにヘッデンが必要な暗さ。
しかも霧雨のような雨が降っており視界も悪いです。
こんな状況でまさか登頂?それともビバーク?
「この先にテントなんて張れる場所があるのかな?」
そんな心配がよぎりました。(翌朝、狭いですが平たい岩の上に一張りだけテントが張ってあるのを確認。テントの主は男女の二人パーティー。ちゃんと会話もしましたよ)
[
そしてウトウトと浅い眠りにつき始めた頃、外は明らかな雨の気配。
どうやら、先ほどの声の主とは違うまた2人程度?の人の気配。
男性の声で「○○さん、登ってください」
と掛け声のあとに、「登りまーす」の女性の声。
こんな感じにコールの声が何度か響いてきました。
暗闇、雨の中。え、まさかオバケじゃないよね???
夢うつつに聞いたコールの声は、テントの中、確かに私たちは聞いていました。
3日目 槍ヶ岳に登頂
まだ星が瞬いていますが、起床。
全然、食欲はわかないけれど、なんとか食事を胃に押し込んで出発です。
槍ヶ岳は11回目という師匠は、サクサクと迷うことなく進みます。
私たちはそれに一生懸命についていきます。
あれは?雲海の上に富士山が!
カッコいい朝の風景
感動の天体ショー
御年74歳の師匠も、まるで子供のようなキラキラとした笑顔で日の出を喜んでみています。
何度来ても北鎌尾根は楽しいと話てくれました。
自分が映画の中にいる?かのような、そんな気分になります
子供のように無邪気な師匠の笑顔も見れられて、こちらも嬉しい気分。
もう、山頂がすぐそこという高揚感!
ココもロープは出さずに通過。
師匠がポイントごとに的確なアドバイスをくれるのでスムーズに進みました
山頂にいる人の気配がしだしましたが、山頂にいる人たちも私たちの気配に気が付き始めました
少し照れ臭いですが、山頂にいた方々が山頂の小さなお社の後ろ側から現れた私たちに、拍手で出迎えてくれました。
風が強く寒かった
記念撮影をしたら下山です
長い長い、上高地までの下山道。
でも、不思議と下山はしんどかった覚えがないんですよね。
達成感と充実感で、興奮していたからかな?
足取りも軽やかに安全無事に下山したのでした。
北鎌尾根は名バリエーションルート
日本のクラシックルートの中ではナンバーワンと呼ばれるのもうなずける、北鎌尾根は山人生で一度は行きたい憧れのルートです。
一般登山道をひととおり歩き、岩稜歩きにも自信がもてたら、岩登りの基本を学んでこれらの岩尾根を挑戦してみてはいかがだろう。新しい山の世界が広がるにちがいない。
参考引用文献:荻原編集長の山塾 山と渓谷社より