2023年9月初旬。
北アルプス穂高連峰の明神岳・東稜へアルパインクライミングで登頂してきました。
この記事はその登攀編になります。(前泊は小梨平キャンプ場、登攀はテント場からの日帰り山行です)
※山行の概要と前泊編は前記事のコチラをどうぞ
明神岳・東稜の難易度
明神岳は標高2931mと3000mには満たないが、記事中の東稜の写真をご覧になっていただければわかる通り、険しい岩山です。
東稜は技術的には難易度はそれほど高くありませんが、標高差1300mをいっきに登る長いルートです。
東稜を詳しく掲載されている本を探してみると残雪期のルートとして紹介されています。
参考までに
こちらは文章でチョロッと書いてあるだけなので、物足りなさすぎます。
どうせ購入するならコチラのアルパインクライミング教本がおすすめです。
上記、アルパインクライミング教本から一部アドバイスを抜粋します。
スピード重視の行動を徹底できるチームだけがこのルートに挑戦できるといえる。このルートに挑む前に、他のルートで訓練を重ね、メンバー同士はお互いの力量を把握しておきたい。バッドレスの登攀ではデリケートな箇所もあるので、クライミング技術も高めておかなければならない。明神岳東稜は体力・技術・戦略など総合力が試されるルートだ。
参考引用文献:山と渓谷社 アルパインクライミング教本
ある登山ガイドさんがご自身のHPで紹介されている明神岳東稜のレベルは、
- 北岳バットレス第4尾根
- 槍ヶ岳北鎌尾根
- 小川山マルチピッチ
と同レベルとし紹介されています。
ご自身の登山・クライミング技術、経験などと照らし合わせ参考にしてみてください。
今回の装備
基本的な登山装備と
- ロープ(シングル50m1本)
- カム(フィンガー~ハンド程度)
- クイックドロー×4
- アルパインクイックドロー(60×2・120×2)
- コードレット(240×1・120×1)
- ヘルメット
- ハーネス
靴は全行程、アプローチシューズのみでクライミングシューズは持って行ってません。
5年前も同ルートの山行でも使用しなかったため今回も必要ないと判断しました。
実際、特に必要性は感じませんでしたが心配な方はあると安心かと思います。
ポイント
軽量化のために行動食は軽い物を
反省点…今回、私は水分を1.5ℓ持っていきましたが、個人的には最低でも2L~2.5Lあれば余裕が持てたかなと感じました。
ひょうたん池の水はとても飲む気にはなれないでしょう。水場はない!と考え、水分の計画はしっかりと!!
登攀レポート
ここからは実際の行動をレポートします。
1度山行している同ルートとはいえ、5年ぶり。
きっとルートの状況も経年により変わっているでしょう。
今回は連れて行ってくださった山の会の師匠はいません。
計画からルートファインディングまですべて自分たち(山行メンバーは同行者Bさんと私の計2人)で考え、その都度、状況判断し行います。
小梨平キャンプ場~ひょうたん池
出発予定は3時。
なんだかんだで?実際の出発は40分遅れの3時40分。
いや、普通に準備していたつもりだったんだけどな。
お互いに気心知れたパートナーと一緒だとつい緊張感が良い加減になってしまいます。
夜明け前、この頃は人間のテント場付近にも多数、熊の出没情報があります。
キャンプ地を出たすぐ辺りから熊鈴を響かせながら出発しました。
昨日は早めに小梨平キャンプ場に到着し、取り付きを下見。
そのおかげで、なんの迷いもなくスムーズに取り付きから入山。
ほぼピンクテープとペンキマークで迷うことなく進んでいきます。
沢を詰めていく時、1か所、左右の二股で間違わないように気を付ける箇所があります。
上記写真箇所。
ケルンがつんであったり、ペンキマーク、ピンクテープがありますが、草や木が生い茂っているとわかりにくい要注意です。
徐々に夜が明けヘッデンがいらなくなってきました。
気分的にも視界が明瞭の方が安心感が増します。
ここ数日、明神岳東稜への入山したという情報がないため熊が気がかりです。
最近では、岳沢小屋の情報から重太郎新道付近で熊が目撃されています。
大きめの声で会話をしたり熊鈴をしっかり鳴らしながら歩きました。
上記写真のように、おもいっきり藪漕ぎです♡
こんな時は、過去の山行を振り返りながらどの藪漕ぎが一番ひどかったか?
今回はまだマシではないか?
そんな事を話しながらお互いに励まし進みました。
樹林帯の沢筋を離れ、宮川のコルを目指し右上していくあたり。
上記写真は振り返り岩壁を見たところ。
写真中央よりやや左下の岩壁に穴が開いているのがわかる。
この穴と平行するように進行方向を右へとトラバースしていくイメージ。
草藪に隠れて小さなピンクテープやペンキマーク、踏み痕を見つけることができるだろう。
草が生い茂っている季節だと、ルーファイが困難なことが上の写真でわかると思います。
慎重にアプリ地図、GPSを活用しながら方角を確認しながら進むことをおすすめします。
Ⅳ峰の東稜の末端にあたる岩壁沿いにあたると、遭難碑(レリーフ)が3枚あります。
そこにレリーフがある理由はおいといて、ルーファイが間違っていないことを確認。
人工物に妙に安心感を覚えます。
藪漕ぎが少し終盤であるきざしが見えてきた。
振り返れば山が快晴の青空のもと映えてる!
登りが苦手な同行者を励ましながら、ひょうたん池が近いことがわかりテンションが上がってきました。
ひょうたん池に到着です。
笹薮の中にひょっこり現れる小さな池。
過去のレコやブログ記事などから、ひょうたん池にはサンショウウオがいるみたいですがこの日はわかりませんでした。
池にはあやまってドボンしないように要注意です。
踏み痕を慎重に進めば池の端に沿って左上して進むのがわかるでしょう。
ひょうたん池のすぐ上に小さなテン場があるのでそこで大休憩としました。
ひょうたん池~第一階段~ラクダのコル~明神岳本峰山頂
ひょうたん池のテン場は1人用なら3張りぐらいはいけそうです。
ここでテント泊する1泊2日の行程で計画する人も多いです。
私たちは5年前同様に日帰りの予定。
ツエルトは持参しているとは言え、飲み水が必要最小限なためビバークは選択肢にはありません。
がんばって登るのみです。
言葉数が空くなってきた同行者を少し心配しながらも、スピード勝負でもあるこの計画
秋の気配とは言え、徐々に日差しを遮る樹木が減ってきました。
休憩すると多少は涼しいですが、いったん登り始めるとすぐに汗をかきだします。
今回の山行では防寒着とウィンドブレーカー、雨着上下を持参しましたがいずれも使用しませんでした
5年前の登攀を思い出しながら進みます。
前回来た時は途中からガスに包まれ、展望がそれほどよくありませんでした。
今回は終始、絶景!
よく周囲の山々が見渡せました。
あまりの天気の良さ、風も穏やか。
絶好のクライミング日和です。
遠くは富士山まで見ることができました。
さあ、第一階段に到着です。
ここでロープを出すかどうか、判断を迫られます。
私たちは前回の山行と同様にロープは出さずに通過。
ロープを出した場合の1P目、つまり本当に最初の一歩のところだけ少し緊張感もって登る場面がありましたが慎重に通過。
後は、慎重に踏み痕をたどりながら、灌木も多いにつかみながら草付きのめんどくさいルートを登ります。
ここはルート外れると、かなり緊張をしいられる草付きに入り混んでしまうのでルーファイ慎重に
天気が良いとこんな景色を見ながらの登攀です
ハイマツ帯では松やにが手にべとべとつくのがやっかいです。
いやあ、あんなところクライミングするのは怖いなあ
私はこっちのハイマツで安全な場所で良かった。
天気がいいということは、残暑厳しくまだまだ暑いということ。
けっこうな水分を摂っています。
やっとラクダのコルが見えてきました。
ラクダのコル手前の全体像が見渡せるポイントで記念撮影しました
日除け対策は万全!
ウメバチソウ
この付近からは、前穂高山頂に人影がはっきりとわかります。
真ん中左が明神岳、右が前穂高岳
岩稜帯にひっそりと咲く花が好きです
ラクダのコルで大休憩をしたらハーネス、装備を整え、さあ本番です!
2p目。
チムニーの方へ直上する方がよりクライミングらしいと言えますが、過去に抜け口の岩の崩壊や、知人が別グループと登攀した際のメンバーさんが滑落しケガをした場所でもあるため、ここは無理をせずに左に巻いてもらうことに。(Bさんリード)
ココさえ抜けてしまえば、後は易しい登攀です。
私も全行程中の3ピッチリードしました。
秋の花リンドウ
タカネヤハズハハコ
前後には誰もいない。
私たちだけの明神岳東稜の貸し切りです。
あせらず落ち着いて登攀。
一度、登っているルートだから?クライミング楽しんでリードできました。
易しいパートは率先してリードをさせていただきます。
だいぶ登ってきたことを実感しながら、眺望を堪能。
山頂直下は本当はやや左から巻くように進むのが正解。
前回、来た時もそのように進んだのに今回は私が右を推して(かなり明瞭な踏み痕あり)しまったばっかりに、山頂直下は緊張を要したクライミングになりました。
多分、このルートで登っている人も多数いるであろう踏み痕ですが、落石がいつ起きてもおかしくないような脆い岩の重なりに感じます。
このパートは写真なし。
過去のレコなどには山頂直下をクライミングしている人もいるみたいですが、安全のためには左から巻き悪いガレを詰めた方がよさそうです。
何はともあれ、無事に山頂へ登頂!
まずはBさんと安全に登頂できた事に感謝!
この後も長いですが、少し休憩し一息入れます。
後方には前穂高岳。
ここからは奥明神のコルを経由で岳沢に下り、前穂高岳を登頂したり岳沢小屋に泊するパターンもあります。
私たちは主稜を縦走し上高地へ下りるルートなので、この後2峰のコルへいったんおり、2峰をクライミングで登ります。
この日、初めて人と出会いました。
この方達は南西尾根をテント泊装備で登ってきて、このまま山頂でビバークするそうな。
お互いの安全を声掛けあいました。
景観がもう、素晴らしいです。
北アルプスの高山に囲まれ、満足至極です。
5年前、またここに訪れることがあるなんて思いもしませんでした。
明神岳登頂~下山
山頂から悪いガレを2峰のコルまでくだります。
かなり慎重に歩かないと悪~い足場、クライミングよりもこんな場所の方が神経を使います。
2峰のコルに下りてきました。
私たちはこの残置ロープの左手側から2Pのクライミングで登ります。
男性2人は私たちが降りてきたガレを慎重に登り主峰へ登頂。
2P目を私がリードしている最中。
後方からすごい大きな音がガラガラと響き渡りました。
パッと振り向くとBさんは、ジェスチャーでシーっと一生懸命に私に訴えかけています。
2峰のコルをはさんで主峰の岩肌を熊が駆け抜けていくではありませんか!!
ガレガレの悪い岩肌を、岳沢側から東稜へと走り抜けていくクマ。
思わずカメラを向け、静止画と動画をとりました。
※Instagramに投稿しました。
すぐ上の主峰の山頂では、何も気づいてないであろう男性2人はすでにテントを張り始めていました。
熊の姿が見えなくなり、2峰へ登りきったらクライミングのパートは終了です。
ここで装備を片づけ、下山の準備を開始しました。
大休憩。
しばらく熊のおもわぬ登場に緊張と興奮していましたが2人とも疲れがまさり、しっかり水分と栄養補給しました。
さて、ここからが長い下山のはじまりです。
主稜を縦走する稜線歩き。
南西尾根をくだり樹林帯へと入っていきます。
今回は終始、天気良く最後まで絶景を堪能することができました。
5峰に残置のピッケルがあるらしいけど、計画よりも時間が押しています。
私たちはピッケルがあるのは知ってはいたけれど先をいそぐことにしました。
5年前もトラロープがはってあった場所。
あ~、こんな場所もあったよね。
私たちは下山の方が得意なので、本領発揮といったところなのですが…。
なかなかスピードがあがらずバスの時間には間に合わなさそう。
途中、水分も尽きてしまい、チビチビとお互いに分け合いながら水分補給しながらの下山となってしまいました。
どれだけこの看板に早く出会いたかったことか!!
下山は単調に樹林帯をくだるだけなので、疲れと水分不足でお互いに無口になりがち。
熊避けのためもあり、できるだけ声を出すように心がけていましたが疲れには勝てなくなっていました。
やっと林道に出ました。
余裕があれば遊歩道を歩くのも良かったけれど、もくもくと林道を歩きました。
足の裏が痛くなりだしていましたが、泣きべそかくほどでもなく下山でき良かったです。
途中、ヘッデン下山も覚悟したけどそれもなく明るいうちに下山もできた!
下山完了!
安全、無事に登頂、下山ができたことに感謝です。