昨年2021年5月末。
私は所属する山岳会の山行で剱岳の残雪期、雪山登山をしてきました。
この記事はこの山行で経験した怖かった実際の出来事です。
安心してください。人は亡くなっていません。
でもヒヤリとするお話です。
こんな小さなブログ記事ではありますが、誰かの参考になればと記録しました。
いざ残雪期の剱岳へ
2021年5月末日。2泊3日 剱岳の雪山登山です。
1日目…室堂から剣沢キャンプ場へ(テント泊)
2日目…剣沢キャンプ場から剱岳へ。計画当初は源次郎尾根からの登攀予定であったが、天候理由で平蔵谷からに変更。
剱岳山頂からは別山尾根経由(雪渓をトラバース)し剣沢キャンプ場へ。
3日目…剣沢キャンプ場から室堂へ。
1日目
出発時、西~東日本は高気圧に覆われまるでなんの心配もないかのように晴れていました。
しかし東北~北海道の上空に寒気を伴った低気圧や湿った空気の影響が…
室堂に到着すると上着を着こまないと寒いぐらい。
途中、バスの中からも山々が雲に覆われているのを見て、緊張で興奮しているのと、天候が少し心配なのと入り混じった気持ちでの出発となりました。
それにしても!剱岳へ残雪期に来るのは、はじめて!。
徐々に天候が回復傾向となってくるのに望みをかけて、山行は決行!
アタック日の山行2日目は最終判断を現地ですることに。
まずはこの重い荷物を背負い、剣沢のテント場までが本日のミッション!
山々には暗い雲がたちこめています。
どんよりした空を眺めていると、この先の行程はいったいどうなっていくのかな?
悪天候の中でのテントの設営、撤収だと面倒だな…
なんて、つい不安な気持ちがよぎります。
雷鳥沢キャンプ場は閑散としていました。
浄土沢にかかる橋の上の雪上にトレースあり。一部、崩落している箇所もありましたがなんとか渡れます。
橋を渡ってからが大変でした。
雪山のテント泊ということで荷物も重装備、剣御前小屋までの登りが特にこたえました
剣御前小屋の小屋裏にいったん荷物を置きトイレ休憩。
この時、ミゾレ交じりの雨風が汗で冷えた体をさらに追い打ちをかけるようで寒さがこたえました。
剣御前小屋から剣沢キャンプ場へなだらかにくだり、テント場に到着しました。
テントをいったいどこへ張るのか?かなり悩みました。
風があるため建物わきにテント設営。
寒いし風も強い、疲労で食欲もなくなっています。
早々にテントの中で休みました。
注意ポイント
この日の晩はテントを大きくゆらすほどの強い風が吹き付け、恐怖で睡眠もままならないほど
もしもに備えて、テント周りにしっかりとしたスノーブロックで風よけの壁を造っておくべきでした。
上の写真に写るオレンジ色のテント。
私たちパーティが到着した時にはすでに張ってありましたが、どうも人の気配がしないなあ…と気にはなっていました。
しかし、私たちのテントを張った場所とは建物を間に隔て互いに見えない位置のため注視するわけでもなく、その日は特に私たちの間でもオレンジ色のテントの主については話題に上りませんでした。
2日目
翌日。
剱岳登頂アタック当日。
リーダーから出発時刻を1時間遅らすとのこと。
出発を少しずらしたおかげで、予報通り、体感的にも心配ないほどに風も落ち着いていました。
リーダーがこの日の山行をどうするのか検討した結果、計画していた源次郎尾根からの登攀は中止。
計画を変更し平蔵谷から登ることになりました。
平蔵谷出合の辺りまでに2組ほどと出会いましたが、どうやらそのどちらも引き返していったようです。
1組はカップルらしき二人で、一人は女性であきらかに歩きなれていなさそうな雰囲気。
もう1組はガイド山行らしい男女でしたが、平蔵谷出合から少しあがったところで引き返していきました。
標高を上げるにつれて、明らかに視界が不良に。
斜度も増し、この分だと山頂の天気にも全く期待ができないなと誰の目にも明らかでした。
標高約2800m 平蔵の頭へ。
そして…
喜びも大きいですが、何せ寒いのです。
風はまあ山頂なのでそれなりにありますが、ただ、寒い。
皆さん、いったん防寒をして暖かい飲み物で小休憩したら再び下山へ歩き出します。
早月尾根と別山尾根の分岐は要注意ポイントです。
このように視界不良でわかりにくい状況の場合、特に慎重に、慎重に進行方向を間違わないように進まないといけません。
なかなか緊張する箇所ではありますが、ガスで下が見えない分、恐怖感はほとんどありません。
標高2800Mの辺り、前剣のあたりでのこと。
視界も悪く、なんの眺望の楽しみもない中、唯一よかったのがライチョウとの出会いです
ご夫婦のライチョウと遭遇
やはり雌の方がかわいらしく感じます。
オスにはちょっと警戒されていた感じでした
前剣から一服剣のあたりまでは、ほぼ夏道をたどるようにハイマツ帯に途中露出している夏道と、雪渓に隠れている部分とを何度も九十九折りにくだります。
一服剣から剱山荘へのルートはすべて雪渓に覆われているため、なんの目印もありません。
上記、写真でわかるように視界も不良。
眼科にせめて剱山荘が見えていればまだ目標物をとらえながら歩けるので良いのですが、地形と方角からGPSでも確認しつつ大雪渓をトラバースしました。
進行方向は間違っていない
ここまでこれば大丈夫
人工物、建物が見えた時の喜びといったら!!
この辺りまでこれば視界もすっきりし出したので、まるで下界に戻ってきたかのようにホッとしました。
まだまだテント場までのなだらかな登り返しがありますが、後はひたすら頑張って歩くだけです。
まさか、遭難!?
無事に登頂し、自分たちの剣沢キャンプ場のベースキャンプへもっどてきた喜びもつかの間…
メンバーのうち何人かは気づかずに先に自分たちのテントへ戻っていきましたが、リーダーと私は自分たちのテントへは戻らずオレンジ色のテントへ近づきました。
なんだか、人の気配がしない…
これって、どうゆうこと?
もしかして?もしかすると?
つい最悪の事態が頭をよぎります
考えられる悪いパターン
- このテントの中で人が倒れている
- すでにこのテントの中で亡くなっている
- 昨日から人の気配はしていなかったから、もぬけの殻では?
- まだテントに戻ってきてない。昨日からいなかったとしたら、あの悪天候でビバーク?
リーダーのAさんと、私がテントの傍まで寄り中に向かい声をかけました
だれかいますか?
いるなら返事してください!!
人間の返事はなし。
なんの物音もせず、気配が感じられません。
テントの中はシーンと静まり返っている様子です。
オレンジ色のテントは入り口のジッパーが締まっています。
リーダーはテントのジッパーを開けて中を見ようとはしていないように感じた私は、迷わず!?
いや、ちょっとだけ、こんな時、人が亡くなっていた場合は第一発見者は事情聴取?とかされるのかななんて一瞬だけよぎりましたが…
思い切ってテントの中を見てみることに。
私はテントのジッパーを開いてみてみると…
テントの中には誰もいません。
ついさっき、このテントを出発した?かのように様々な山用品が散乱していました。
明らかにここに戻ってくる予定で、ちょっと出て行ったような雰囲気です。
あれ?
そんな散らかった(失礼!)テント内の中に紙が1枚あるのが目につきました。
手に取って見てみると…
それは登山の計画書でした。
しかも詳細に記載された、しっかりした計画書です。
その内容から
- 男女二人のパーティー
- 著名な山岳会に所属 その山岳会会長あての書式
- 昨日、源次郎尾根から剱岳へ登頂、テント場へ下山
これはヤバイのでは?
なぜ、昨日中にテント場まで戻ってこられていないのか?
まぎれもなく、これは遭難だ。
てっきり、そうであろうと思い込んでいる私たち。
昨日の暴風。
そして本日も剱岳上部は視界も悪く真冬のような寒さ。
どこかでビバークしているのか?
それとも滑落など事故でもあったのか?
まずは誰かに知らせなければ。
この場所から一番近い、剣御前小屋が営業している。
そこで警察へ知らせてもらおう。
そう考えた私たちは、同じ剣沢キャンプ場にテントを張っている他のテント(数張り、私たちの後から着たテントがありました)
に向かい大きな声で呼びかけました。
「誰か、無線などもっていませんか」
「テントにまだ戻っていない人がいます」
するとテントの中にいた他の人たちも出てきました。
ことの経緯を話していると、たまたま私たちの隣にテントを張った二人組のうちの1人が、これから剣御前小屋まで走り伝達してきますと申し出てくださいました。
申し出てくださった方はガイドさんでした。
話を聞いてしまったからには自分が行くしかない、と判断された様子で、迷わずに本当に剣御前小屋へ走って知らせに行ってくださいました。
時間はすでに夕方。
辺りは天気も回復し、周りの雪景色がオレンジ色に染まりだしていました。
テントの主が現れた!
その後のテントの主の行方について、全く見当もつかず気にはなりつつも…
やっと自分たちも夕飯を食べ終わり落ち着いてきた頃
テントの外から聞き覚えのない男性の呼ぶ声が
外の気配からどうやら、隣のテントにいる私たちパーティのリーダー達と話しをしています。
話声は丸聞こえ…
なんと、その声の主である初老の男性は、オレンジ色のテントの主だったのです!
まるで狐につままれたような気分。
だって、生きてる!!
そして、今、この現在
「お騒がせして申し訳ありません」
と皆に言っているではありませんか!!!
オレンジ色のテントの主
- 計画通り源次郎尾根から剱岳へ登頂。
- その後、下山でルートを間違え早月尾根方面へ進んでしまった。
- 途中、間違えたことに気が付いたが引き返してテントへ戻るよりそのまま早月尾根を下山した方が安全と判断。
- 無事に馬場島へ下山。
- 公共交通機関を使い、本日、一人で室堂からこの剣沢キャンプ場に荷物の回収のため歩いてやってきた。
本当にお騒がせな!!
いや。勝手に私たちが遭難ではないかと騒いでいただけか?
この日の夜は、本当に、本当に、安心して眠ることができたのでした。
まとめ
2021年残雪期 剱岳登山。
最後はドタバタと、ヒヤッとすることもあったけれど、無事に全員で安全に登頂、下山することができました。
十二分に、「試練と憧れ」「岩と雪の殿堂」の剱岳を満喫させていただいたと思います。
快晴に映える剱岳をバックに、皆で来年も残雪期の剱岳登山に再び来ることを約束し下界へ戻っていきました。
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参考