あなたは「ヴォイテク・クルティカ」という偉大な登山家を知っていますか?
2021年11月にクライミング界のアカデミー賞とも称されるピオレドール(金のピッケル)賞の生涯功労賞を受賞した山野井泰史さんなら知ってるよという人も多いのではないでしょうか。
そのピオレドール賞を受賞した山野井さんに「クルティカは僕にとって、まさに理想のクライマーだ」と言わしめた、アルパインクライマーのヴォイテク・クルティカの登攀と人生にかかれたこの本「アート・オブ・フリーダム」をご紹介します。
スタイルこそすべて。山頂は単なる道程に過ぎない。
登山やクライミング、キャンプといったアウトドアブームの近年。
あなたはどれだけの登山家やクライマーの存在を知っていますか?
昨年、ピオレドールの生涯功労賞を受賞した山野井泰史さんが記憶に新しいと思います。
他は?
いったい何人の著名な登山家やクライマー、冒険家が思い浮かびますか?
現代人でパット思いつく人…日本人では、例えば少し古いですが冒険家の植村直巳さん。2013年に80歳でエベレストを登頂した三浦雄一郎さん。女性としてはじめてエベレストに登頂した田部井順子さん、CMやバラエティ番組でもお見掛けする7大陸最高峰を世界最年少で登頂達成した野口健さんでしょうか。
世界の登山家やクライマーなら、「なぜ、山に登るのか。そこに、山があるからだ」という言葉で有名なイギリス人登山のジョージ・マロリーや、人類初のエベレスト登頂を果たしたエドモンド・ヒラリー。最近ならアカデミー、ドキュメンタリー賞を受賞した映画「フリー・ソロ」のアレックス・オノルドが有名です。
しかし、この本「アート・オブ・フリーダム」の主人公ヴォイテク・クルティカというポーランドの登山家であり偉大なるアルパインクライマーの名前を知っている人はそれほど多くはないでしょう。
ヴォイテク・クルティカは1970~1990年代にかけ、ヒマラヤの難峰をアルパインスタイルで攻略してきたクライマーですが、
本人がジャーナリズムから距離を置いていたことや、日本語訳の彼についての文献があまりにも少ないためヴォイテク・クルティカの名前は日本ではそれほどメジャーという認識がありません。
「スタイルこそすべて。山頂は単なる道程に過ぎない」
とは、クルティカの言葉ですが、この本ではそんな彼の登攀と人生の評伝です。
「アート・オブ・フリーダム」の著者、ベルナデッド・マクドナルドはカナダ人の山岳ジャーナリストで、この本は2017年にアメリカで刊行後、すでに8か国で翻訳出版されています。
ヴォイテク・クルティカって、こんな人
- ポーランド人
- ヒマラヤなど世界の難峰をより厳しいラインからアルパインスタイルで登ったすごい人
- 究めて困難で危険な登山ばかりをしてきたが、彼自身も同行のパートナーも必ず生きて下山している
- 許可を得ていない違法な登攀をコレクションとして楽しんでいる
- 離婚は2回。子供は二人。
- 密輸入で資金を稼いでいた
- 山のためなら役人に嘘をついたり、賄賂を渡すのも上手
- 日本人との遠征登攀歴もある(山田昇、山野井泰史)
- ちょっと変わってる(クライマーに多い。tomoの個人的な偏見です。でも愛すべき人物が多い)
- 実はさみしがりや
- イケメン♡
アルパインスタイルと極地法
このアート・オブ・フリーダムを読むことで、現在の世界の登山界の流れはアルパインスタイルであることがわかりました。
極地法とは困難な山に対して用いられる登山法の一つである。包囲法とも呼ばれる。
最初に安全な地点にベースキャンプを設け、そこから比較的連絡のとりやすい距離に次々とキャンプを設営する。隊員はキャンプ地間を行き来して、必要な物資を運搬する。また必要に応じて移動困難箇所のルート工作を事前に行う。それぞれのキャンプ地の隊員の援助を借りつつ、最終的に少数の隊員が頂上を目指すのがこの登山法である。
参考引用:Wikipedia
アルパインスタイルとは、ヒマラヤのような超高所や大岩壁をヨーロッパアルプスと同じような扱いで登ることを指す登山スタイル。大規模で組織立ったチームを編成して行う極地法とは異なり、ベースキャンプを出た後は下界との接触は避けて、一気に登る。また、サポートチームから支援を受けることなく、あらかじめ設営されたキャンプ、固定ロープ、酸素ボンベ等も使わない。装備に極力頼らず、登る人の力にのみ頼ることを最重要視して行う登山スタイルである。
参考引用:Wikipedia
ヴォイテク・クルティカの主な登攀歴
- チャンガバン南峰(1978)
- ダウラギリ東壁(1980)
- ブロードピーク縦走(1984)
- ガッシャブルムⅣ峰西壁(1985)
- トランゴ・タワー東壁(1988)
- チョ・オユー南西壁(1990)
など多数の登攀、クライミング歴がある
「アート・オブ・フリーダム」で一番好きなヴォイテク・クルティカの素質は安全に対して高い意識をもっていること
私がヴォイテク・クルティカの人間性で一番好きな素質は安全に対して高い意識をもっていることです。
そのことが明記されている箇所を引用してご紹介します。
残念なことに、登山家の人生によくあるのは、あらゆる種類のリスクに対する感受性が徐々に鈍化して、主観的な不死身の感覚になることです。
第11章 p213より引用
クルティカは危険のサインにきわめて敏感で、それが誰よりも強かった。例えばチョ・オユーやマナスルのように雪崩の危険がはっきりしているときもあった。彼はそのような状況では登ることを拒否した。そこに奇跡はない。
第16章 p328より引用
「ユレク(ククチカ)は間違いなく、運を天に任せすぎていました。多くのパートナーを失ったことからもあきらかです」ククチカがパートナーを失わなかったのは、ククチカとクルティカがほぼいつも一緒にいた4年間だけだった。
第16章 p331より引用
ラインホルト・メスナーが言ったように「最も優秀なクライマーとは、高いレベルで偉大なことを成し遂げ、生き残る人です。」
第16章 p331より引用
数々の有名な偉業を成し遂げた登山家が山で亡くなっていく中、クルティカだけは生き残り帰ることができているということがどれだけすごいことなのかがわかります。
世界の有名登山家でなくとも、日本においても「まさか、この人が?」という方が山で亡くなったニュースは残念ながら1年に数回は聞く事実だと思います。
危険予測に対しては常に敏感に意識を向けること。
身の引き締まるおもいです。
「アート・オブ・フリーダム」まとめ
本記事は「アート・オブ・フリーダム」稀代のクライマー、ヴォイテク・クルティカの登攀と人生
について紹介させていただきました。
tomoの、わかった!
- 登頂することが全てではないと改めて確信した
- 山や自然に対する畏敬の念は日本人特有のものではなく、人種や宗教をこえ個人によるところが大きい
- 登山やクライミングは単なる運動・スポーツとしての要素だけでなく、文化的で芸術的な要素を大きく含む活動である
- アルピニズムとは「山を登るだけでなく自らを超えていくこと」であるとクルティカが言っているが、私自身の山行でも自分も同行の仲間も、誰一人として遭難やケガなく安全無事に下山をすることが最重要である
ヴォイテク・クルティカという人物が魅力的で気になる!という方はぜひチェックしてみてください。
この本ではアルパインスタイルの名だたる登山家たちも登場しますので、アルパインクライミングに興味がある方には面白い内容となっています。